南海トラフ地震の発生確率、なぜ「60〜90%」と「20〜50%」の2つがあるのか

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「20〜50%」という数字を見て、安心してしまっていませんか

2025年9月、政府の地震調査委員会が南海トラフ地震の発生確率を見直しました。それまで「30年以内に80%程度」とされてきた数字が、「60〜90%程度以上」と「20〜50%」という2つの確率の併記に変わっています。

この報道を見て、「20〜50%まで下がったのか」と受け取った方がいるかもしれません。それは誤解です。

この記事では、なぜ2つの数字が併記されることになったのか、そして私たちはこれをどう読むべきなのかを整理します。数字の意味を正しく理解することは、備えの優先順位を決めるうえで避けて通れません。

何が変わったのか

地震調査委員会は2025年9月26日、12年ぶりに算出方法を見直し、次の2つの確率を併記しました。

計算方法 30年以内の発生確率 特徴
すべり量依存BPTモデル 60〜90%程度以上 地震の発生間隔に加えて、土地の隆起量データも使う
BPTモデル 20〜50% 多くの海溝型地震で採用されている、発生間隔のみを使う方法

従来の「80%程度」は、前者に近い考え方で算出されていた数字です。

なぜ2つになったのか

見直しのきっかけは、従来使ってきたデータに誤差があるという指摘でした。

従来の計算では、江戸時代の古文書に記録された土地の隆起量のデータが使われていました。しかし古文書由来のデータには、当然ながら誤差が含まれます。そこで調査委は、この誤差を考慮して幅を持たせた計算方法を導入しました。

具体的には、ベイズ推定という統計処理を取り入れ、10万通りの計算結果から確率を求めています。プレートの動きによるひずみの蓄積量にばらつきがあることも考慮されました。

そのうえで、隆起量データを使わない別の手法(20〜50%)も併せて公表した、というのが今回の見直しの構造です。

この数字をどう読むべきか

「確率が下がった」わけではありません

最も重要な点です。地震のリスクそのものが減ったのではなく、計算方法が2種類示されただけです。

「20〜50%」という数字は、隆起量データを使わない、より保守的な前提で計算した場合の値です。これを「リスクが半分以下になった」と読むのは、統計の扱いとして誤りです。

それでも極めて高い確率です

仮に低いほうの「20〜50%」を採用したとしても、30年以内に5回に1回から2回に1回の割合で起こりうるということです。

日常生活で考えれば、これは相当に高い数字です。交通事故に遭う確率や、火災に遭う確率と比べてみれば、その高さが実感できると思います。どちらの数字を見ても、備えないという選択肢は導かれません。

確率の数字に意味を求めすぎないこと

そもそも、この種の長期評価は「いつ起きるか」を当てるためのものではありません。社会全体としてどれくらいの資源を防災に振り向けるべきかを判断するための指標です。

個人にとって重要なのは、80%か50%かではなく、「起きたときに自分と家族が生き残れるか」です。確率の議論を追うより、備蓄と家具固定を1つ進めるほうが、はるかに現実的な意味を持ちます。

最新の被害想定(2025年3月公表)

2025年3月、中央防災会議のワーキンググループが最新の被害想定を公表しています。

南海トラフ地震(最悪シナリオ・冬の深夜)

項目 想定される最大値
死者数 約29万8000人
負傷者 最大95万人
避難者 最大1230万人
全壊焼失棟数 最大235万棟
経済被害 約292兆円

経済被害の約292兆円は、2025年度の名目GDP670兆円の4割以上にあたります。国家財政の規模を超える打撃です。

首都直下地震(都心南部直下・風がある冬の夕方)

項目 想定される最大値
死者数 約1万8000人
全壊・焼失建物 40万棟
停電 最大1600万軒
避難者 最大480万人
経済被害 83兆円

首都直下地震の発生確率は30年以内に70%とされています。

この数字が意味する、備えの現実

被害想定の数字から読み取るべきは、恐怖ではなく「公助が届かない」という事実です。

避難者1230万人・停電1600万軒という規模

南海トラフで避難者が1230万人に達した場合、避難所の収容能力も、物資の供給能力も、まったく足りません。首都直下で1600万軒が停電した場合、復旧には相当の時間がかかります。

2019年の台風15号では、東京電力管内の約93万戸の停電で、千葉市の復旧に約10日を要しました。1600万軒はその17倍の規模です。

つまり、「避難所に行けば何とかなる」「数日で復旧する」という前提が成り立たないということです。在宅避難を前提とした備蓄が、想定の規模から論理的に導かれます。

優先して備えるべきもの

この規模を前提にすると、優先順位は明確になります。

  1. 家具の固定(生き残るための対策。詳しくは点検リストの記事で解説しています)
  2. 水と携帯トイレ(支援が届くまでの日数が長引くため。携帯トイレの選び方)
  3. 停電対策(1600万軒規模では復旧が長期化します。停電対策グッズ)
  4. 食料の備蓄(非常食の選び方)

まとめ

  1. 確率が下がったわけではありません。計算方法が2種類示されただけです
  2. 低いほうの「20〜50%」でも、日常の感覚では極めて高い確率です
  3. 確率の数字を追うより、備蓄と家具固定を1つ進めるほうが意味があります
  4. 被害想定の規模から、公助が届かない前提での備えが必要だと分かります

確率の見直しは、私たちの行動を変える理由にはなりません。80%でも50%でも、やるべきことは同じだからです。

参考にした情報源

※本記事の情報は2026年8月時点のものです。

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